相手の心を手に取るように把握する『止観』の修行~自分を知る~
2017年01月17日
100人100通りの仏教を生かしたコーチング!
大喜多健吾です。
本日もお読み下さり有難うございます。
自分のほんとうの気持ちに気づいていますか?
自分自身が感情に振り回されていませんか?
人間は日々、イライラしたり、怒ったり、迷ったりします。
こうした感情は一般的にはマイナスのものと捉えられがちですが、仏教では、ネガティブな感情が湧くこと自体を否定しません。
ただ、「迷いは尽きないものの、なるべくそれを絶つように努力せよ」と教えます。
そして、イライラや怒りが湧いたら、いったん立ち止まって自分の心を見つめ、
「なぜ、私は腹を立てているのか?」
「どうして、いまイヤな気持ちになっているのか?」
とその原因を考えてみることを教えています。
感情を静めて、自分の心を見つめ直すことを、仏教では「止観(しかん)」といいます。「止」で心を静め、「観」で集中して、トラブルの原因やトラブルになりそうな種を点検・反省するのです。そうすれば、ざわついていた心は早く静まります。
怒りの背景にある感情を見つめる
Hさんは、職場で「なまはげ部長」と異名をとるほど怖い部長として知られています。四六時中、苦虫をかみつぶしたような顔をして、「泣く子はいねぇがぁ~」とばかりに、周囲ににらみを利かせています。
当然、部下がミスをすると雷が落ちますし、プロジェクトの進行が少しでも遅れると、イライラすることも珍しくありません。いつ地雷を踏むか、ヘマをしでかさないか、と恐る恐る接してくる部下や下請業者の姿を見ると、さらに怒りが増幅します。
ある日曜日、Hさんが妻とショッピングセンターに立ち寄ったときのこと。
「おもちゃを買って!」と床に寝転がって泣き叫んでいる男の子を見かけました。
お母さんが「わがままを言っちゃダメよ」と叱っても、いつまでも泣き止みません。よく見ると、お母さんは生まれてまもない赤ちゃんを抱っこしていました。
Hさんは思わず「しつけの悪い子だ」とつぶやきましたが、妻は「あの子はおもちゃが欲しいんじゃないの。下の子が生まれて、ママが自分をかまってくれないのが淋しいのよ。気持ちをうまく伝えられないの」と冷静に分析していました。
「素直に自分の気持ちを伝えられたらいいのにね」とも。
しだいにHさんには、泣き叫ぶ男の子が会社での自分の姿のように見えてきました。
管理職としての指導能力についての不安や、周囲から慕われないことの孤独感を抱いていながら、立場上、そんな弱音を見せたくない、知られたくないばかりに、怒鳴り散らしている自分の姿のように。
自分のイライラや怒りの原因を垣間見たHさんでしたが、翌週末、「最近、ストレスが溜まっているみたいだから」と心配する妻の誘いで、妻が1年前から通っている坐禅道場に同行することになりました。
「座るだけのことに何の意味がある」とまたイラッとしそうなHさんでしたが、自分の息を数える「数息観(すうそくかん)」という心身の修養鍛錬法には興味を惹かれました。足を組み、目を閉じて、朝の静謐な堂内に響く僧侶の声に従います。
〈鼻から息を静かに吸いながら「い~」、その息をそのまま口から吐きながら「ち」と数えてください。つまり、一呼吸で「一(い~ち)」です。同じように次の呼吸で「二(に~い)」、続けて「三(さ~ん)」と数えます。そして、百まで数えたら、また一から繰り返します。時間は線香一本分で約45分、呼吸の数は約330になります。
静かに呼吸を続けるだけですが、次の条件だけは守ってください。
1.数を間違えないこと
2.雑念を交えないこと
3.この二つの条件に反したら、「一(い~ち)」に戻ること〉
Hさんは、次々と浮かんでくる雑念に何度も「一」に戻りながらも、静かに呼吸を続けるうちに、気持ちがしだいに安らいでくるのを実感しました。
「数息観」で心をコントロールする
相手に対して怒りを感じるきっかけはいろいろあるでしょう。
Hさんの場合なら、部下のミスやふがいない働きぶりです。しかし、ミスをしたのは故意ではないでしょうし、Hさんなら問題なくこなせる仕事も、経験不足の部下には荷が重かったのかもしれません。
もちろん、仕事ですから甘えは許されませんが、
「彼はまだ駆け出しで、やり方がよくわかっていなかったからだ」
「プロジェクトの初期段階から、オレがスケジュールを管理しておけばよかったんだ」
と原因にフォーカスできれば、怒りもおさまってきます。これが「止観」です。
そのために利用したいのが「数息観(すうそくかん)」です。
とはいえ、会社でイラッとするたびに坐禅を組むわけにもいきません。
怒りを感じたら、どこかで一人になって「い~ち」から呼吸をゆっくりと数え、意識を呼吸に集中します。呼吸に意識をずらすことで感情の高ぶりを抑え、自分の心を見直し、イライラや八つ当たりしそうな感情を静めるのです。
感情的になりがちな人は、ぜひ日々の暮らしの中に「数息観」を取り入れ、自分の心と向き合う時間をつくるようにしてみましょう。
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